記憶

僕の家は薪と灯油でお風呂を焚いていた。
手伝わされて嫌な仕事は薪割り。
うまく割れればそれほどではないものの、木が堅くてうまく斧が入らないときには、

衝撃がきて、その日の夜には手がジンジンしていた。

ある日、父が自慢げに箱から新しい機械を取り出した。
緑色だったか、黄色だったか、確かそんな色。
今までの薪用のノコギリに比べれば随分重い。
それが電気チェンソーだった。

その日以来薪割りは随分楽になったものの、
相変わらず嫌な仕事には変わりはなかった。

あれから三十年余り。
今ではエンジンチェンソーで木に彫刻をしている。

切る、彫る、刻む、飛ばす……。
あなたが言っていたように確かに便利な機械だよ。
でも、今では木魂と語り、木に生命(いのち)を吹き込むチェンソー。

ガーっと唸るマシンの音に記憶がよみがえる。

―――『ギャラリー・街・DO! Vol.3』掲載(有限会社 フィフティーズ・ネット・ワークス)